神秘なる山に伝わる、カカオの伝承
そこは麓(ふもと)から一度足を踏み入れれば、ささやくような木々の声が聞こえてくる世界。チリチリと熱を帯びた太陽が頭上を照りつけ、生い茂る木々の葉の隙間から木漏れ日が小川の水面(みなも)に煌めいては散ってゆく。滴る汗をぬぐいながら土と岩との間を登っていくと突然眼下にカリブ海のエメラルドが広がり、雲の切れ間に目をこらすと、万年雪をかぶった空より青い静閑な山々が遥か遠くに現れます。
カリブの海を背景にいくつもの山が連なる山脈シエラネバダ。そこは5,775mのコロン山頂を筆頭に、富士山の頂きを遥かに凌駕する山々が連なる深碧(しんぺき)と紺碧(こんぺき)が重なり合う領域。コロンビアの先住民の末裔であるアルアコ族はこの山の中に独自の文化を築いていて、この国が生まれる前から自然とともに生き、母なる大地からの恩恵を受けながらその固有の言葉と文化を紡いできました。
彼らのルーツを辿っていくと、カカオ栽培の文化を持っていた民族「タイロナ族」にたどり着きます。コロンビア北部グアヒラ半島にその文化を築いていた彼らは自給自足を中心とした農耕民族で、口頭伝承ではカカオも栽培していたと伝えられています。