歴史を刻む、深緑の土地に継がれるカカオ
この地を空から見下ろすと、それはまるでジャングルのように一面深緑で覆われた風景が見渡せ、太平洋に注ぎ込む蛇行したいくつもの川を目にすることができます。一度その地に足を踏み入れると、あたかもアフリカにいるかのように錯覚してしまう土地、それがコロンビア南部、太平洋に面したカカオ産地トゥマコです。かつて、アフリカから奴隷として連れて来られた人々の血を引くアフロ・コロンビアンと呼ばれる人々が人口の9割以上を占めるこの地は、悲壮な歴史を背負い、経済や治安の面で難しい状況に直面してきました。コロンビアにおけるコカや暴力、ゲリラの時代に最も被害にあった地域の一つでもあります。
そのトゥマコの至宝とも言える、古くからこの地に息づくローカルカカオ。樹齢100年、200年を超えるものが湿った空気とジャングル用のように高く茂る緑の中に、今尚存在しているのです。その味わいは他のカカオを圧倒するほどのコクで、やわらかく、エキゾティックな香りとともに口の中に広がります。
トゥマコのローカルカカオに一目惚れし、この地の開発を始めたのは2011年のこと。町や村々の経済状況に加え治安も安定せず、希少なカカオを探すために奥地に入るとゲリラとのニアミスも有り得る時代でした。道の無い、ボートで一旦海に出てから川を登らないと辿り着かない地域もあり、アクセスの難しさに悩むこともありましたが、それでもそのカカオを諦められなかったのは、唯一無二の香味を有していたからです。